中村伊知哉が見るクールジャパンの現在と未来 vol.1

11 9月 2015,   By ,   0 Comments

 

中村伊知哉.001

 

■クールジャパン?ってかんじ。

 

初夏にパリ郊外で開かれる「ジャパンエキスポ」の会場。おっさんどもがアニソンをバックに踊りまくっている。コスプレの群れ。日本では絶滅種のガングロもヤマンバもいる。

15年前に3000人の来場で始まったこの日本文化イベントは、4日間で20万人が足を運ぶまでに成長。マンガ、アニメ、ゲームの御三家は海外に定着した。政府もコンテンツ産業に期待を寄せるようになった。

ところがコンテンツ産業は苦しんでいる。市場規模は拡大はおろか逆に減少している。出版も音楽も映画も放送もみな厳しい。マンガもアニメもテレビゲームも国内市場は減少している。

「クールジャパン」という言葉もよく聞くようになった。私が出演する「NHK Cool Japan」も、もう十年の長寿番組だ。しかし海外で御三家が奮闘しているとはいえ、コンテンツ全体ではまだ国際競争力を示していない。収入の海外・国内比は日本は5%で、アメリカの17%に遠く及ばない。

ゲームもビジネスの主戦場はテレビゲームからネットゲームに移行し、日本は出遅れた。かつてアジアでJ-POP旋風を巻き起こしたポップ音楽も、韓国のK-POPに地位を奪われた。

ただ、かつて取締りの対象でしかなかったポップカルチャーを政府が今や国の宝として扱っているのは、それが産業に元気を与えてくれるから。コンテンツがもたらすイメージやブランド力が他の産業を押し上げる効果を持つからだ。

そこで求められるのが複合クールジャパン戦略。コンテンツと、他業種との連携だ。エンタテイメントに食やファッションといった日本の強みを組み合わせ、総がかりで海外進出を図る。コンテンツ「を」売るだけでなく、コンテンツ「で」出て行って、複合的に稼ぐ。

アニメの主人公が着るファッションで魅せて、ラーメンを食べていただき、日本者をカッコいいと思ってもらう。コンテンツという文化力と、ものづくりという技術力をかけ合わせる。いずれも日本の強みだ。その両方を国内に持ち合わせている国は多くない。チャンスなのだ。

 

ポップパワープロジェクト KMD

 

KMDでも、これを後押しするリアルプロジェクトを進めている。私が担当する「ポップパワープロジェクト」では、エンタテイメント産業と連携して、音楽、マンガ、アニメ、ゲーム、お笑いコンテンツのプラットフォームを形成している。

音楽業界との共同によるJ-Pop情報の海外発信プロジェクト「Sync Music Japan」では、ほぼ全てのJ-Popアーティスト(約2000組)のデータベースを運営している。アニメでは、日本動画協会と連携し、マンガ・ゲーム、音楽、グッズ等の分野にビジネス展開する活動を進めている。「海外マンガフェスタ」では、大友克彦氏、浦沢直樹氏、ちばてつや氏、松本大洋氏らに参加してもらい、マンガの国際マーケットを作る活動を進めている。

学生主体の活動もある。きゃりーぱみゅぱみゅさん主演の「もしもしにっぽん」は、NHKワールドで世界放映し、ネットでも配信するほか、国内ではBSフジでオンエアというメディア融合番組。ポップな日本を英語で紹介する学生企画のネタをお届けしてきた。

吉本興業が展開する動画配信チャンネル「OmO」(オモ)では、学生たちがチャンネルを設け、番組を制作・配信している。映像を制作する人材の育成策やネットでの新ビジネスに関する共同研究だ。

マンガ、アニメ、ゲームなどのコンテンツと、ファッション、食や雑貨などの他産業を連携して、複合クールジャパン力を発揮する取組が「Tokyo Crazy Kawaii」。カワイイを世界各地でローカライズするプロジェクトだ。2013年秋、第一回をパリで開催、稲田朋美クールジャパン担当大臣(当時)にも参加いただいた。2014年には台湾。2015年にはタイ・バンコクで開催する。

東京五輪が来る2020年に向けて、クールジャパンの集積特区を作る大プロジェクトが「CiP=コンテンツ・イノベーションプログラム」。東京都港区竹芝地区に、コンテンツやITに関する研究開発、人材育成、起業支援、ビジネスマッチングを一気通貫で行う町を開く。

国家戦略特区として総理大臣の認定を受けており、テストベッドを構築するほか、沖縄・京都等の都市、アメリカ、韓国、シンガポール等の拠点を結ぶハブとして機能させる。スタンフォード大学との連携も強化する計画だ。
これら産学の動きに政府も支援の構えを見せている。政府・知財本部は、コンテンツの海外展開を重要事項に据えている。私が座長を務めるようになった5年前から、クールジャパンは政策の柱となっており、著作権制度や人材育成など長期課題を扱っている。

これとは別に、短期的な輸出促進策を練るため、「クールジャパン推進会議」も編成された。私はその下に置かれた「ポップカルチャー分科会」の議長も務めたのだが、その提言は、「政府主導ではなくて、みんな」で推進しようというものだった。政府の会議で政府主導を否定するのもオツなものだが、それを許すのも政府が本気であることを示している。

クールジャパンの政策は、むつかしい。まず、自分をクールなどと呼ぶことがクールじゃない。そもそもクールジャパンは13年前にダグラス・マッグレイ氏が記した論文「Japan’s Gross National Cool」がキッカケであり、日本が自ら進めたというより、海外からの発見に乗っかったものなのだ。「クールジャパン?」とでも表記して奥ゆかしくしているほうがよいのかもしれない。

それに、クールジャパンやコンテンツを話題にすると、「そんなの国のやることかよ!」という声が必ず飛び交う。ポップカルチャーの海外人気が認知されたとはいえ、未だサブカル扱いなのだ。

そう、国のやることだ。やるべきことはやらねばならぬ。これは特定産業の育成策ではない。コンテンツを支援するのは、外部効果が大きいからだ。コンテンツ産業の売り上げを伸ばすというより、コンテンツを触媒として、家電や食品や観光などを含む産業全体、GDPを伸ばすことが狙い。ソフトパワー、つまり文化の魅力で他国を引きつける政治学的な意味合いもある。

ただ、業界に補助金を与えたり、ハコものにカネをつけたりしてはいけない。支援するなら、アナウンス(旗振り)、規制緩和(電波開放や著作権特区)、減税。それで民間の自主的行動にインセンティブを与えることだ。そして、ハコよりヒトだ。

やることはいくらでもある。本音を言えば、日本に「文化省」を作りたい。文化、知財、ITに関する政策の司令塔を創設して文化立国を明確にしたい。その上で、ことポップカルチャーのような「みんな」が作り上げる文化の施策は、「みんな」が考えるのがいい。参加型の政策が欲しい。

20年前、官僚として政府にコンテンツ政策を打ち立てようと企てた研究会の事務局を務めていた時、ある委員の放った発言が今も耳に残る。「こういう政策は、本気で100年やり続けるか、何もやらないか、どちらかだ。」私は、「そうだ、政府は本気で100年やり続けろ。」と言いたい。